昼休み/弁当の蓋を閉じたら/定年だ
——今日は、ずっとお待たせしてしまっていた書き手をご紹介します。万年係長さんです。
実はこの方、すでに40句も投稿してくださっている常連なのですが、特集でご紹介するのが今回が初めてです。遅くなってしまって、本当に申し訳ありません。そして今日の一句は、その40句のなかでも、いちばん怖くて、いちばん巧い一句だと思います。
ここが好き
昼休み / 弁当の蓋を閉じたら / 定年だ
好きなのは、時間の跳び方です。
一行目、「昼休み」。ごく普通の平日、昼の数十分です。二行目、「弁当箱の蓋を閉じたら」。食べ終わって、パチンと蓋を閉める。——ここまで、わずか数秒の出来事です。
ところが三行目、「定年だ」。
蓋を閉じる音が、定年の音に変わってしまった。昼休みが終わる「区切り」と、職業人生が終わる「区切り」が、同じ"閉じる"という動作でつながっているんですよね。数秒が、いきなり十数年を飛び越える。この跳躍が、鮮やかで、そして少し怖い。
じっくり味わう
この句が本当にうまいのは、「定年だ」が二重に読めるところです。
ひとつは、未来の予感としての読み。「こうして毎日蓋を閉め続けて、気づいたら定年なんだろうな」——同じ動作の反復が、人生を食い尽くしていくという感覚。昼休みが何千回も繰り返されて、その総体が職業人生になる。
もうひとつは、今まさに定年であるという読み。今日が最後の出勤で、最後の弁当を食べ終えて、蓋を閉じた。その瞬間に「終わった」と気づく。——どちらで読んでも成立します。そしてどちらで読んでも、昼休みの弁当箱ひとつで、人生の長さが測られてしまう。
「昼休み」という、いちばん何も起きない時間を選んだのが効いているんですよね。退職の辞令でも、送別会でもない。弁当箱の蓋。そこに人生が凝縮される。
「万年係長」という名前
そして、この方の凄さはペンネームそのものが作品になっていることです。
万年係長。昇進しないまま係長で居続ける人。——この名前を背負って、40句すべてを川柳で詠み続けているんです。
「日向ぼっこ/係長も丸く/なりました/定年まであと/十五年待つ」。丸くなったのは人柄か、それとも体型か(笑)。そして定年まであと十五年という、途方もない残り時間。
「稲穂垂れ/係長の給与も/実らぬまま」。——先週の「稲穂」の振り返りで**「実るほど頭を垂れる」**という格言の話をしましたが、この方の答えは明快です。稲は実る。給与は実らない。
「鞄が鳴いた/妻の小言が/詰まってた」。鞄がぎしりと鳴る。その中身は書類ではなく、妻の小言だった。
「乗り継ぎの/時間つぶしで読む新聞/三日前」。読むものがなくて手に取った新聞が、三日前の日付。
——どれも笑えます。でも全部、笑ったあとに少しだけ寂しい。この**「笑いに悲哀を溶かす配合」**が、万年係長さんの持ち味です。サラリーマン川柳の王道でありながら、一人のキャラクターを通して詠み続けることで、連作としての厚みが生まれている。
まとめ
40句も投稿してくださっていたのに、ご紹介が今日になってしまいました。あらためて読み通してみて、これは一人の「係長」という人物の記録なんだと気づきました。昇進せず、定年まで十五年あり、妻の小言を鞄に詰めて、昼休みに弁当の蓋を閉じている人。その人の日常が、40句分たまっている。
万年係長さん、素敵な句をありがとうございました。これからも、係長の日々を読ませてください。昇進の一句が届く日も、楽しみにしています。
みなさんは、ふとした動作が、急に人生の長さを感じさせた瞬間はありませんか? よかったらコメントや返歌で、教えてください。