高鼾|たかいびき|/一升瓶と/盆の月
——今日は、迎え火の日。この一句を、今日のために取っておきました。
MaYoさんの俳句。お盆に集まった家族の、宴のあと。畳の上には空になった一升瓶、その横で誰かが高鼾をかいていて、外には盆の月が出ている。それだけの景色なのに、お盆という時間のすべてが入っているような一句です。
ここが好き
高鼾|たかいびき| / 一升瓶と / 盆の月
好きなのは、三つのものが、ぽんぽんと並べてあるだけなのに、物語が見えてくるところです。
高鼾。誰かが、遠慮なく眠りこけている。一升瓶。それも、もう空でしょう。盆の月。窓の外には、静かな月。——この三つを並べただけで、**「ついさっきまで、この部屋がどれだけ賑やかだったか」**が伝わってくる。久しぶりに顔を合わせた親戚が、飲んで、笑って、昔話をして、そして力尽きて眠っている。描かれていない宴のほうが、ありありと見えてくるんですよね。
じっくり味わう
そして、この句のしずかな仕掛けが、**「盆の月」**です。
お盆は、亡くなった方が帰ってくるとされる時期。つまりこの家には、**二種類の「帰ってきた人」**がいるんですよね。ひとつは、高鼾をかいて眠っている、生きている家族。もうひとつは、盆の月に照らされて、そっと帰ってきているご先祖。
騒がしい生者と、静かな死者が、同じ家に泊まっている。——そう思って読み返すと、この高鼾が、なんだかとても愛おしく聞こえてきませんか。ご先祖からすれば、元気にいびきをかいて眠っている子孫の姿ほど、安心できるものはないはずで。にぎやかさが、そのまま供養になっている。しみじみと沁みる一句です。
「一升瓶」の、置きどころ
もうひとつ、一升瓶という取り合わせが絶妙です。
缶ビールでも、ワインでもなく、一升瓶。あの大きくて、どっしりして、少し古風な瓶。仏壇のある家の畳の間に、いちばん似合う酒器ですよね。しかも一升瓶は、ひとりで飲むものじゃない。何人もで注ぎ合って、空にするもの。この一本が、今夜の家族の人数を語っているんです。
そして、その一升瓶と月が、**「と」**でつながれている。畳の上の空き瓶と、空の月。低いところと、高いところ。地上の宴と、天上の光が、この小さな助詞ひとつで結ばれているのが、たまらなくうまい。
まとめ
お盆というと、しめやかな句になりがちです。でもMaYoさんは、高鼾と空き瓶という、いちばん俗っぽいものを持ってきた。それでいて、盆の月をそっと置くだけで、静かな祈りまで届かせてしまう。にぎやかで、あたたかくて、少しだけ厳かな、お盆にぴったりの一句でした。
MaYoさん、素敵な一句をありがとうございました。
今日から、お盆です。みなさんのお家にも、賑やかな「帰省」はありますか? 高鼾も、空になった瓶も、きっと年に一度のごちそうです。よかったらコメントや返歌で、あなたのお盆を聞かせてください。