返歌特集

見上げて、下を向く — 視線の上下、返歌で読む三組

2026年5月30日

俳句共感 12
返歌
俳句共感 16

俳句共感 10
返歌
名無しの詠み人
俳句共感 2

俳句共感 8
返歌
俳句共感 14

第4回の返歌特集です。今回のテーマは**「視線の上下」**。

句って、案外視線の動きで出来ているんですよね。空を見上げるのか、足元を見るのか。仰ぐのか、俯くのか。元句と返歌のあいだで目線が上下に動くような3組を集めてみました。

百合を見上げて、高嶺に俯く

最初は、なごみRさん × 万次郎さんの一組。

元句「振り返る / 存在感や / 百合の花」。道を歩いていて、ふと振り返ったらそこに百合が咲いていた。**「存在感や」**の一語で、百合の白さがすっと立ち上がってきます。見上げるような百合の佇まいに、思わず足を止めてしまう景色。

返歌は万次郎さんの「されど高嶺と / 下向き歩くや」。これがいい。「然れど高嶺と」——百合のあの存在感は素晴らしい、けれどあれは自分には届かない高嶺だ、と。だから下を向いて歩く

二句で視線が上から下へ落ちる。百合を仰ぎ見る肯定の歌が、自分の立ち位置を確かめる謙遜の歌に切り返される。**「高嶺の花」**という古い言葉が、令和の俳人ふたりの手で蘇った瞬間でした。計20共感で、今期の返歌ペアでも屈指の名コンビ。

羽がほしい、けれど帰れない

二組目は、なごみRさん × 名無しの詠み人さんの一組。

元句「南風 / もしも背中に / 羽あれば」。10共感を集めたなごみRさんの一句。南風に吹かれて、ふと「羽があったらどこへでも飛んでいけるのに」と願う、素直で大きな上昇の欲望です。

これに対する返歌が静かにすごい。「羽ならば / 南風に乗って / 帰れまい」。

帰れまい」——羽があったら、確かにどこへでも行ける。でも、戻ってこられない。文語の「まい」が断定の苦さを残します。一度南風に乗って空へ上がってしまったら、もう同じ場所には降りられない。

上昇への憧れを、「帰れない」という地上の重力で受け止めた一句。元句が上を向き、返歌が振り返って下を見る。羽を持つことの代償を、たった三行で言い切ってしまいました。

夜桜を仰ぎ見て、ネオンを重ねる

最後は、うたまるさん × 川石のりたけさんの一組。

元句「夜桜や / スマホの明かり / 仰ぎ見る」。夜桜を撮ろうとしてスマホを掲げる人々。語り手の視点だと、人々がまるで小さな光を仰ぎ見ているように見える。実際には手元のスマホなのに、その姿勢は祈りに似ている、というおもしろい視点。

返歌は川石のりたけさんの「街のネオンに / 薄紅重ね」。

スマホの明かりを仰ぎ見ていた視線が、こんどは街のネオンへと上がる。そして、薄紅(桜の色)を、人工のネオンに重ねる

桜とネオン。自然光と人工光。本来別々のはずの光を、視線が重ねていく。元句が「仰ぎ見る」と動詞で動かしたものを、返歌は「重ねる」と動詞で受け取る。目線の動きそのものが、句のあいだで継承されている返歌でした。計14共感


返歌は、相手の句に視線を返す行為でもあります。元句が上を見ていたら、自分は下を見るのか、もっと上を見るのか。返歌で目線をずらすことで、二人で初めて見える景色がある。

みなさんも、誰かの句に出会って「自分なら違う方向を見るな」と思ったら、ぜひ返歌を。視線がずれた瞬間、新しい景色が見えてきます。