週末締めのweekly**「紫陽花」**が終わりました。14句の投稿、ありがとうございました!
並べてみて気づいたのは、紫陽花までの「距離」が、句ごとにぜんぜん違うということ。手で触れる近さ、画面越しの遠さ、知識でつかむ距離、心で寄り添う距離——14句が、五つの異なる紫陽花の見方を教えてくれました。
今回はその五つの距離に沿って、5句ご紹介します。
距離①:科学の距離 — なごみRさんの俳句
紫陽花の / 色もいろいろ / pH(ペーハー)の
9共感でトップタイ。なごみRさんの俳句。
これ、やられました。
紫陽花の色が、土壌の**pH(酸性かアルカリ性か)で青や赤に変わる——理科の知識として知っていても、それを俳句にしてくるのは、なかなかない発想ですよね。「色もいろいろ」とやわらかく前置きしながら、座五で「pH(ペーハー)の」**と理科の言葉をぽんと置く。
そして**「ペーハー」というカタカナの音。「あじさい」「いろ」と続いた和語のリズムを、最後に外来語の硬い音でひっくり返す。これ、わざとですよね、たぶん。理屈で色が決まっているという、ちょっとそっけない事実が、「ペーハー」**の音にも重なって、ふっと笑える。
詩情と科学が、笑顔で握手している一句でした。
距離②:家族の距離 — 日常生活さんの俳句
朝露に / 娘が摘みたる / 紫陽花か
同じく9共感のトップタイ。日常生活さんの俳句。
こちらは、なごみRさんの「科学の距離」とは対極の、手のなかの距離。
「娘が摘みたる」——古語の文体が、不思議と家族の景色にしっくり来るんですよね。文語で書くことで、朝の家のなかにふっと差し込んだ、しずかな光景が浮かぶ。娘さんの小さな手が、朝露を含んだ紫陽花をそっと持ってきた、そのささやかな一場面を、**「か」**の詠嘆ひとつで丸ごと祝っている。
紫陽花は、摘めばすぐ萎れてしまう花でもありますよね。だからこそ、娘さんが摘んだ、その朝の一瞬を、句にして残しておきたかった——そんな、俳句の本来の役目を感じる一句でした。
距離③:仕事帰りの距離 — いるかver.2さんの俳句
紫陽花や / 夜勤明け飯 / 薄曇り
7共感。いるかver.2さんの俳句。
**「夜勤明け飯」**って、なんていい中七なんでしょう。
朝、ふつうの人が出勤する時間に、一晩働き終えて帰ってくる人がいる。コンビニで何か買って、家か仮眠室で食べる、そのぼんやりした一食。「夜勤明け飯」の五音に、疲労と空腹と、それでも今日もちゃんと生きてる、という感じが、ぎゅっと詰まっている。
そこに**「紫陽花や」の上五が乗る。座五は「薄曇り」**——梅雨の朝らしい、鮮やかでも陰鬱でもない、中間の空。夜勤明けの体に、薄曇りの光と、紫陽花の濃い色だけが、やけに鮮明に映る——そんな景が立ち上がりました。
働く人の俳句として、しみました。
距離④:都市の夜の距離 — 市井の詩人さんの自由詩
夜間営業の花屋で / 紫陽花の色が / スマホの光に溶けている
8共感。市井の詩人さんの自由詩。
**「夜間営業の花屋」**で始まる時点で、もう景が決まってますよね。
夜の街、終電前、まだ開いている花屋。蛍光灯の白い光と、店先の紫陽花。そこに通行人のスマホの画面が重なる——LINEを返しながら歩いている人かもしれないし、ふと立ち止まって写真を撮ろうとした人かもしれない。
「スマホの光に溶けている」——この**「溶けている」**が、ぐっと来ます。
混じってもいない、消えてもいない。境界が曖昧になっているだけ。これが令和の都市の紫陽花の見え方なんですよね。自然の色と、デジタルの光が、もう分かちがたく一つの景色になっている。
短い三行で、現代の夜をまるごと写しとった一篇でした。
距離⑤:心情の距離 — うたまるさんの短歌
朝露ふる / 紫陽花の色 / 迷いかね / 昨日と今日で / 違う顔して
最後はうたまるさんの短歌。2共感ですが、これは置いておきたい一首でした。
「迷いかね」——紫陽花を**「色を決めかねている」**と読んだ視点。
科学的には、土の pH に従って色が変わっているだけ。でもこの歌では、紫陽花自身が迷っていることになっている。「昨日と今日で/違う顔して」——人にもありますよね、こういう日。自分でも、今日の自分の色がよくわからない朝。
うたまるさんは、紫陽花に自分の心の不安定さを、そっと預けている。花に話を聞いてもらっているような距離感で、ふしぎな親密さがある一首です。
まとめ
科学(pH)/家族(娘の手)/仕事(夜勤明け)/都市(スマホ)/心情(迷い)——14句から拾い出した五つの距離。同じ紫陽花でも、どの位置から見るかで、こんなに違う花になるんですね。
紫陽花って、見るたびに色が違って、**「あれ、こんな色だったっけ」**と毎年思う花でもあります。それは花のせいでも土のせいでもなく、たぶん、こちらの距離が毎回違うからなのかもしれません。
参加してくださったみなさん、ありがとうございました。今週からは新しい梅雨のお題も動き出します。あなたが今、紫陽花までどのくらいの距離にいるか——次の一句で、ぜひ教えてください。