お題の振り返り

「もしも」の先に、いまが待っていた — 130句の分かれ道

2026年8月19日

川柳共感 7
自由律共感 7
川柳共感 7
俳句共感 5
短歌共感 5
名無しの詠み人
短歌共感 5

5月から7月まで、三か月にわたって走り続けたチャレンジお題**「もしも」を詠むが終わりました。130句——これまでで最大**の投稿数です。本当にありがとうございました! 短歌36・川柳34・俳句31・自由詩29と、四つのジャンルがきれいに並んだのも見事でした。

「もしも」は、ふつう後悔の言葉ですよね。あのときこうしていれば。ああしなければ。——ところが130句を通して読んで、はっとしました。「もしも」を最後まで辿った人たちは、たいてい"今ここ"に帰ってくるんです。もしもあの日ああしていたら、今のこれは無かった。だから、これでよかった。130の分かれ道が、ぜんぶ今日につながっている——そんな壮大なお題でした。今回は6句をご紹介します。

①玉手箱、星二つ — 川石のりたけさんの川柳

玉手箱 / 浦島レビュー / 星二つ

7共感。川石のりたけさんの川柳。

まずは、声を出して笑ってしまった一句から。もしも浦島太郎が、レビューサイトに感想を書いたら——という「もしも」です。玉手箱を開けたら、おじいさんになってしまった。その評価が、星二つ(笑)。

うまいのは、星一つじゃないところなんですよね。最低評価ではない。竜宮城の接待は良かった。ただ、最後のお土産で台無し——そんな絶妙な採点。しかも「浦島レビュー」という言葉の圧縮ぶり。昔話を現代のレビュー文化に放り込むだけで、こんなに愉快になるとは。川石さんは今回、**「かぐや姫/月から迎え/クラブ行き」**という一句も寄せていて、昔話シリーズはどれも絶品でした。

②見えたなら、逃げろ — 事件さんの自由詩

もしも / ティラノが / 見えたなら / 逃げろ

7共感。事件さんの自由詩。

そして、**今回いちばん潔い「もしも」**がこちら。

「もしもティラノサウルスが見えたら」——という、壮大でばかばかしい仮定。ふつうなら、そこから空想がふくらんでいくところです。ところが事件さんの答えは、たった三文字。「逃げろ」。

余韻もロマンもない。ただ、生き延びろ。この身も蓋もない実用性が、たまらなくおかしいんですよね。しかも改行して一行ずつ落としていく形が、じりじりと迫ってくる緊張感を作っていて、最後の「逃げろ」で読者を突き飛ばす。「もしも」の空想を、一瞬で現実に引き戻す、痛快な一篇でした。

③笑顔で帰ってきたら — 気ままにさんの川柳

もしもあの子が / 笑顔で帰ってきたら / 朝日が眩し

7共感。気ままにさんの川柳。

ここから、**しみじみとした「もしも」**へ。

「もしもあの子が、笑顔で帰ってきたら」——ということは、いま、その子は笑顔で帰ってきていないんですよね。学校か、仕事か、なにかがうまくいっていない。そして、その子の帰りを待つ人が、ただ「笑ってほしい」と願っている。

いいのは、願いの叶った先を**「朝日が眩し」**と置いたこと。喜びを直接には書かない。もしその日が来たら、翌朝の光がまぶしいだろう、と。願いが、明日の朝の光に託されている。気ままにさんは今回、お孫さんを想う「もしも」を何句も寄せてくださっていて、そのどれもが、こんなふうにやさしい光を含んでいました。

④畳まなかった、あの日 — 日常生活さんの俳句

もしもあの日 / 洗濯物畳まば / 朝日失ふ

5共感。日常生活さんの俳句。

こちらは、とびきり小さな「もしも」。

もしもあの日、洗濯物を畳んでいたら。——なんという些細な仮定でしょう(笑)。人生の大事件ではなく、家事をひとつやったか、やらなかったか。それだけのことなのに、**「朝日失ふ」**と続きます。

畳むのを後回しにしたから、翌朝、洗濯物ごしに朝日を見ることができた。もし几帳面に片づけていたら、あの光には出会えなかった。——きちんとしなかったおかげで、美しいものに出会えた。日常生活さんらしい、生活のすみっこから拾い上げた「もしも」です。人生の分かれ道は、洗濯物一枚のところにもあるんですね。

⑤振り向いてくれていたら — 若き夢見人さんの短歌

もしもあの日 / 君が振り向き / くれていたら / 夏の夜風は / 違う匂いがしたろう

5共感。若き夢見人さんの短歌。

そして、**いちばん切ない「もしも」**を。

あの日、君が振り向いてくれていたら。——叶わなかった恋の、いちばん有名な仮定です。でもこの歌がうまいのは、「どうなっていたか」を語らないところ。付き合えていたとも、幸せだったとも書かない。ただ、「夏の夜風は/違う匂いがしたろう」。

変わったのは、風の匂いだけ。この抑制が、かえって胸に迫ります。世界が劇的に変わるわけじゃない。ただ、同じ夏の風が、まったく別のものとして感じられたはずだ、と。そして裏を返せば——いま吸っているこの夏の風の匂いは、振り向いてもらえなかった側の匂いなんですよね。しずかで、深い一首でした。

⑥抱かなかったなら、愛せなかった — 名無しの詠み人さんの短歌

もしもあの夜 / 泣き止まぬ子を抱かず / 寝てたならば / こんなに深く / 愛することもなかった

最後は、名無しの詠み人さんの短歌。5共感。130句のなかで、私がいちばん心を打たれた一首です。

夜中、泣き止まない子ども。眠くて、疲れきっていて、正直、放って眠ってしまいたかった。でも、抱き上げた。——その夜のことを、こう振り返ります。「もしも抱かずに寝ていたら、こんなに深く愛することもなかった」。

これ、「もしも」の使い方が、他のどの句とも違うんです。ふつう「もしも」は、選ばなかった道を惜しむために使われますよね。でもこの歌は、選ばなかった道を思い浮かべることで、選んだ道の価値を確かめている。あの夜のしんどさが、そのまま、いまの愛の深さになっている。

愛は、最初からそこにあったんじゃない。あの夜、抱き上げた腕がつくったんだ——そう言われた気がしました。130の「もしも」を締めくくるのに、これ以上の一首はありません。

まとめ

浦島レビュー星二つ(川石)/ティラノには逃げろ(事件)/笑顔で帰る日の朝日(気ままに)/畳まなかった洗濯物(日常生活)/振り向かなかった夏(若き夢見人)/抱き上げた夜(名無しの詠み人)——130句から拾った、六つの「もしも」。

紹介しきれなかった句が、まだ百以上あります。「もしもあの日/麦茶こぼしてなけりゃ/今ここにいない」(うたまるさん)という、こぼした麦茶が人生を変えた一句。「もしもあの時/戻れたなら何する?/スマホ見てる」(うたまるさん)という、タイムマシンの無駄づかい(笑)。「もしも駅で席を譲らなかったら」を二方向から詠んだ市井の詩人さんの連作。「もしも定時で帰れたら/冷たい麦茶を飲む自分が/朝日の中で笑ってる」という、働く人の切実な願い。そして、なごみRさんの「南風/もしも背中に/羽あれば」——。

三か月、130の分かれ道。選ばなかった道を思うことは、選んだ道をもう一度選び直すことなのかもしれません。長丁場のお題に付き合ってくださったみなさん、本当にありがとうございました。

あなたの「もしも」は、どこへ続いていますか? よかったら、コメントで教えてください。