今回は、少し特別な振り返りです。お題**「ミシン」**は、川石のりたけさんが提案してくださった、ユーザー投稿お題でした。提案のとき、川石さんはこんな言葉を添えてくれています。
今は使う機会が少なくなったかもしれませんが、誰もが家庭的な温もりを感じる道具です。そんな「ミシン」をテーマに、ほのぼのとした温かい作品が集まることを楽しみに、お題として提供します。
「ほのぼのとした温かい作品が集まることを楽しみに」——この願いに、みなさんはどう応えたのか。集まったのは、22句(俳句9・川柳7・短歌4・自由詩2)。ふたを開けてみると、そこには——夜なべしてミシンを踏む、母の背中が、これでもかと並んでいました。川石さん、断言します。**あなたの願いは、みごとに叶いました。**今回は22句から、5句をご紹介します。
①夜なべの音は、自分の「元手」だった — 市井の詩人さんの川柳
夜中まで回す / 母のミシン音 / 俺の給料
7共感。市井の詩人さんの川柳。
まずは、いちばん胸を打たれた一句から。
夜中まで、母がミシンを回している。その内職の音を、詠み手は**「俺の給料」**と呼びます。——これ、二重に効いているんですよね。ひとつは、母の夜なべが、文字どおり家計を支え、自分を食べさせてくれたという意味。もうひとつは、あの夜のミシン音こそが、今の自分をつくった「元手」だった、という感慨。給料明細には決して載らない、けれど何より大きな「支給額」。ミシンの音を、これほど誇り高く、そして切なく言い換えた一句に、思わず背筋が伸びました。「温もり」というお題への、力強い最初の答えです。
②ミシンが壊れて、はじめて見えるもの — なごみRさんの俳句
愛用の / ミシン壊れて / 手縫いする
8共感、共感数トップ。なごみRさんの俳句。
22句のなかで、唯一「ミシンが動かない」句です(笑)。
みんなが母のミシン音を懐かしむなか、なごみRさんの愛用ミシンは、壊れてしまった。それでも、手縫いする。ここがいいんですよね。道具は壊れても、縫うことをやめない。むしろ、機械が止まったことで、針を持つ手のぬくもりや、一針ずつの時間が、かえってくっきり見えてくる。ミシンという便利な道具への賛歌がならぶなかに、そっと**「手の温もり」そのもの**を置いてみせた、いいアクセントの一句でした。
③背中が、歌っていた — 通りすがりの凡人さんの俳句
ミシンの音 母の背中が 歌ってた
4共感。通りすがりの凡人さんの俳句。
これは、情景がまるごと絵になる一句です。
子どもの目線から見た、ミシンに向かう母。顔は見えません。見えているのは、まるいその背中だけ。でも、リズミカルなミシンの音に合わせて、その背中が、「歌ってた」。——なんて幸せな比喩でしょう。母は歌っていたわけじゃない。ただ黙々と縫っていただけ。でも、そばで見ていた子どもには、その背中が、確かに機嫌よく歌っているように見えた。音のある景色を、こんなにあたたかく思い出せるなんて。川石さんの願った「家庭的な温もり」の、ど真ん中の一句です。
④手作りのドレスで、晴れ舞台へ — MaYoさんの川柳
ミシン鳴る / 母のドレスで / 発表会
7共感。MaYoさんの川柳。
こちらは、**ミシンが生んだ「晴れの日」**の一句。
母がミシンで縫ってくれた手作りのドレスを着て、子どもが発表会の舞台に立つ。ピアノか、バレエか、歌か。既製品じゃなく、母の手が、母の夜が縫い込まれた一着。それを着て、我が子が晴れ舞台に立つ——母にとっては、我が子の発表会が、自分の作品の発表会でもあるんですよね。「ミシン鳴る」の一言に、当日までの何日もの夜が畳み込まれていて、読むだけで誇らしい気持ちになります。
⑤蒔いた種に、いちばんの花を — 川石のりたけさんの川柳
やっと縫えたね / 家族のきずな
最後は、このお題を出してくださった川石のりたけさん、ご本人の川柳です。12共感、22句のなかで最高の共感を集めました。
実はこれ、川石さんが同じお題に寄せた**「指縫った/だけどアナタへ/カタカタと」という句への、ご自身の返歌なんです。指を針で縫ってしまうほど不器用に、それでも「アナタ」のために縫い続けて——そして、「やっと縫えたね」。縫い上がったのは、服だけじゃない。「家族のきずな」**でした。
お題を提案し、その願いを誰よりも体現する一句を自ら詠む。種を蒔いた人が、その畑にいちばん大きな花を咲かせた——そんな締めくくりに、なんだかこちらまで嬉しくなりました。川石さん、素敵なお題と、素敵な一句を、ありがとうございました。
まとめ
母の夜なべ(市井)/壊れても手縫い(なごみR)/歌う背中(通りすがり)/手作りドレス(MaYo)/家族のきずな(川石)——22句から拾った、五つのミシン。
紹介しきれませんでしたが、ほかにも、**「夜涼し/ミシンの音も/やさしくて」と母の手指を見つめる短歌(名無しの詠み人さん)、「足踏みミシンが/夏の光を反射している」駅前の洋裁店の自由詩、そして「孫のワンピース」「子どもの浴衣」を縫う祖母や母の句が、いくつも寄せられました。どの句にも共通していたのは、夜の時間、針の音、そして誰かのために手を動かす人の姿。まさに、川石さんが願った「家庭的な温もり」**そのものでした。
ユーザーのみなさんが出してくださるお題には、その人が「こんな句が読みたい」と思う気持ちが込められています。その願いに、こうしてたくさんの句が応えていく——それが、いちばん嬉しい瞬間です。川石さん、そして参加してくださったみなさん、ありがとうございました。
あなたの家にも、ミシンの音の記憶はありますか? よかったら、コメントで聞かせてください。そして——**「こんなお題で、みんなの句を読んでみたい」**というアイデアがあれば、ぜひお題を投稿してくださいね。次はあなたの願いに、みんなで応える番です。