8月をまるごと使った月間お題**「夕暮れの色」**が終わりました。63句もの投稿、ありがとうございました! 俳句17・短歌17・自由詩16・川柳13と、四つのジャンルがほぼ均等に並んだ、みごとな大所帯です。
63句を並べて気づいたのは、みなさんが詠んだのは「夕焼けそのもの」ではなく、「夕焼けに染まった何か」だったということ。洗濯物、母の手、スマホの画面、そして自分の顔。夕暮れは、そのへんにある日常のものを、一瞬だけ特別な色に変えてしまう。今回はそこから、6句をご紹介します。
①洗濯物が、紅くなる — 日常生活さんの俳句
洗濯物 / 紅く染まりて / 風揺らぐ
11共感でトップ。日常生活さんの俳句。
まずは、いちばん身近な"染まるもの"から。取り込む前の洗濯物が、西日を浴びて紅く染まっている。
いいのは、白いはずのものが紅いという一点なんですよね。洗濯物といえば、清潔な白のイメージ。それが夕焼けを浴びて、まるごと紅く塗り替えられている。しかも**「風揺らぐ」——揺れるたびに、色が濃くなったり薄くなったりする。ただの家事の風景が、数分だけ、絵画みたいになる。実は日常生活さんはこのお題に「洗濯物」の句を三つも寄せてくださっていて、「洗濯物/夕焼けに染まる/白さかな」「洗濯物/紫紅に染まる夕焼け/母の手も」**と、同じ景色を追いかけ続けているのが素敵でした。
②朝焼けは、夕焼けの予告状 — うたまるさんの短歌
朝焼けは / 夕焼けの予告状 / 読まぬふり / 昨日の色を / 今日も待ってる
9共感。うたまるさんの短歌。
これは、発想にうなった一首です。
朝焼けを見ると、その日の夕焼けもきれいになる——「朝焼けは夕焼けの予告状」。なんて洒落た言い方でしょう。しかも、その予告状を**「読まぬふり」**をするんです。
なぜ読まないふりをするのか。それは、期待してしまうのが怖いからなんですよね。そして下句、「昨日の色を/今日も待ってる」。——本当は、あの日見た夕焼けをもう一度見たくて、毎日待っている。予告状なんて要らないふりをしながら、いちばん待っている人。夕焼けを"待つ"という行為の、こじれた愛おしさが詰まった一首でした。
③黒の上に、さみしい赤 — MaYoさんの短歌
黒の上 / さみしき赤の / 添えられて / 目に焼きつくは / 藤城清治
8共感。MaYoさんの短歌。
こちらは、夕暮れを"作品"として見た一首。
藤城清治——影絵の作家ですね。真っ黒なシルエットの向こうに、鮮やかな色が透けるあの世界。夕暮れどきの景色は、まさにあれなんです。建物や木々は真っ黒な影になり、その上に赤だけが残る。
「さみしき赤」という言い方が絶妙で、夕焼けの赤って、明るいはずなのに、どこかさみしいんですよね。そして「目に焼きつくは」——網膜に残像として残る。空を見ているうちに、いつのまにか一枚の影絵を見せられていた。芸術の名前をひとつ置くだけで、夕暮れの見え方をがらりと変えてしまった一首です。
④スマホ画面が、オレンジになる — 市井の詩人さんの川柳
定時退社 / スマホ画面が / オレンジ色に
7共感。市井の詩人さんの川柳。
ここから、現代の夕暮れです。
久しぶりに定時で退社できた日。歩きながらスマホを見ていたら、画面がオレンジ色に染まっている。——自分は夕焼けを見ていないんですよね。見ていたのは画面。でも、その画面ごしに、夕焼けが入り込んできた。
残業続きだと、そもそも夕焼けの時間に外にいられない。定時退社できた日だけ、この色に会える。「定時退社」という言葉が、そのまま季節の贈り物みたいに響くのが、この句のうまさです。夕焼けが、働く人へのささやかなご褒美になっている。
⑤インスタ映えと、寝不足顔 — ぴえ子さんの川柳
夕焼け見て / インスタ映え狙う / 寝不足顔
7共感。ぴえ子さんの川柳。
そして、いちばん正直な現代の夕焼け(笑)。
きれいな夕焼けを見つけて、すかさずスマホを構える。狙うはインスタ映え。……ところが、写り込んでしまうのは自分の寝不足顔。
夕焼けは、いいものだけを照らしてはくれないんですよね。空の色と一緒に、疲れた自分の顔まで映してしまう。「映え」を狙った結果、いちばん映えないものが写るというオチが最高です。①では洗濯物を、④ではスマホ画面を美しく染めた夕暮れが、ここでは容赦なく現実を照らしている。ぴえ子さんらしい、笑えて刺さる一句でした。
⑥色じゃなくて、気持ちの問題 — ほろ酔いさんの自由詩
夕焼けなんて言葉があるから/きれいに見えるだけで/朝日も同じ色じゃねえか/…/「いや待てよ、色じゃなくて/気持ちの問題なのかもな」/と言い張る馬鹿がここにいる
最後は、ほろ酔いさんの自由詩。8共感。締めは、このだらだらした名篇で。
酔った勢いで、すごいことに気づいてしまうんです。「夕焼けなんて言葉があるから、きれいに見えるだけ」——朝日だって同じ色じゃないか、と。……たしかに、その通りなんですよね。同じ光を、朝は「朝日」、夕方は「夕焼け」と呼び分けて、片方だけ特別扱いしている。
ところが翌朝、冷蔵庫を開けたら納豆の賞味期限が昨日。壮大な発見のあとに、この落差(笑)。そして最後、**「色じゃなくて/気持ちの問題なのかもな」と言い直し、「と言い張る馬鹿がここにいる」**と自分でオチをつける。
——でも、これ、実は今回のお題の答えなんじゃないでしょうか。63句の誰もが、同じ光を見ながら、それぞれ違うものを見ていた。色の問題じゃなく、気持ちの問題。締めくくりにこれ以上ない一篇でした。
まとめ
紅く染まる洗濯物(日常生活)/夕焼けの予告状(うたまる)/藤城清治の影絵(MaYo)/オレンジのスマホ画面(市井)/映えない寝不足顔(ぴえ子)/気持ちの問題(ほろ酔い)——63句から拾った、六つの夕暮れ。
ほかにも、「夕日染まりて/今日の日の/終わり色」(MaYoさん)という、一日の終わりをそのまま色にした一篇、「夕焼けや/ブランコ乗って/待ちぼうけ」(なごみRさん)の、公園に取り残された子どもの時間もありました。
同じ空を見ているのに、洗濯物を見る人、影絵を思う人、自分の顔を見てしまう人がいる。夕暮れは、その人がいま何を気にしているかを、そっと照らし出すのかもしれません。
ひと月にわたって参加してくださったみなさん、ありがとうございました。今日の夕暮れは、あなたの何を染めましたか? よかったら、コメントで教えてください。